連作祭壇画無主物

 『喉を切られたこども ー甲状腺三県比較調査ー』

ベニヤ(1170o×910o)三枚に油彩
2014

 

「―あの、ひじょうに立場的に仕事上なやましいのが、あの、二次検査を、甲状腺エコー検査のあきらかに「B」という判定をもらった生徒がいて、

二次検査に先週から行かせてもらっているんですけれども、

(中略)もうすでにこどもたちが、書類がまわってきておびえているんですね。」

(郡山市で高校の教諭をしているという男性二〇一四年二月)

   
チェルブイリ原発事故から一〇年後、

国際原子力機関( IAEA )により 放射線被曝により増加する疾病として唯一認められたのが、こどもの甲 状腺癌である。
 
福島での原発事故後、このことを踏まえて国は環境省下、事故当時福 島に住民票を置いていた一八歳以下児童のすべて三六万人余の甲状腺の状態検査に乗り出す。

被曝というのは遺伝子の連結が電気的に切断され てしまう作用で、成長期の細胞分裂の頻度がはげしい、器官形成期にあ るこどもになればなるほど、その影響は大きくでてくる。

したがって、 福島の原発事故が住民の健康に影響を与えたかどうかのひとつの指針と してこのこどもの甲状腺検査は位置している。
 
超音波機器を喉にあて、

異常がなければ『A1』。

水ぶくれのようなも の(のう胞、という)、血の詰まった袋(結節、という。結節は癌へと推移する可能性があるとされている)

が発見されたとしても彼らの基準で それぞれ二〇ミリ以下五ミリ以下の大きさであれば『A2』と定義付け して、

二年後までは様子観察で良いとした。

のう胞、結節が基準よりも 大きい場合、『B』判定となる。

この判定をうけたこどもは、二次検査受 診を求められ、喉に針を刺して細胞を採取、癌細胞の可能性の有無を調 べられる。

そこで癌の可能性が濃ければ『癌の疑い』。そして手術により 癌が確定される。

『C』は状態が悪い。手術が望まれる。
 
挙げた発言は、高校の教諭が彼の教え子にその針を喉にささねばなら ない対象になってしまったこと、

それに対する子供の反応を述べている。

この言葉を自分は福島市で聞いた。
 
事故前までの日本における一八歳以下での甲状腺癌発症率は旧国立が んセンターの統計で一〇〇万人に一人、

多くて二、三人。

それが二〇一七 年四月時点福島の環境省下の調査(福島県民健康調査)委員会公表で福 島では一八五名のこどもが癌もしくは癌の疑いの診断を受け、

手術によ り癌が確定した数は一四六名となっている。

この傾向に歯止めはかかっ ていない。

かつ、事故後六年の間に国から離れた組織として立ち上げら れた「3.11甲状腺がん   こども基金」が、

国によるこの公表数から 漏れている福島県民である小児癌患者の存在を明るみにし、

挙げた数が あくまで最低限度のものでしかないことが判明している。


     この、旧県民健康管理調査と名付けられたこの調査は福島医大専一で 行われ、

そこに関わる医師たちからなる検討委員会は一貫してこの甲状 腺癌発症について放射線との因果関係を認めて来なかった。

これまでの 期間に彼らが行ってきたことはいかに < 福島のこどもの健康状態に異常 事態は発生していないか > このことを喧伝することだった。

 
三県比較調査はその一環として環境省により行われ、

青森、山梨、長 崎のやはり一八歳以下児童の希望者の甲状腺調査を行い、福島の状態と 比較したものである。

二〇一三年にその比較調査の結果が公表され、

新聞、 テレビは他県との比較で福島のこどもに異常は発生していない旨の報道 を大量に流した。

だがその結果公表は、のう胞、結節の割合のみに絞ら れた情報で、

その時点で福島ですでに数を増していた癌の要素が切り捨 てられていた。

 
二〇一四年の段階では福島では七四名のこどもが<癌の疑い>と診断され、

対してこ の他三県の調査では、一人のこどもが<癌の疑い>と診断された。

いずれの県から その一人が出たのかそのことについて情報は秘密に伏され、

その場所が いずこにせよ、<他の二県からは癌の子供は発生しなかった>。

  七四:(一:〇:〇)。


これが彼らの比較調査における小児甲状腺癌の本来の結論だった。

だが、世に流された情報は

 

『他県と比較して福島のこどもに異常はない』



そんな言葉だった。

現在では国際疫学会での福島児童の甲状腺癌は多発事例として至急対策が求められている。

いずれにせよ、事故が発生し て起きた事の一つとして、多数の子どもの喉に針がさされ、メスが入れ られたことは動かない。