連作祭壇画 無主物

「避難指示区域」

ベニヤ(1170o×910o)三枚に油彩
二〇一三年六月から制作、完成

 

「―でもね、

障害者やね高齢者、痴呆認知症なんかになってるひ と、障害者精神障害者知的障害者高齢者認知障害者、

じぶんの意思を言えない”。

自殺するような病状においこまれても。

損害の賠 償を求める訴えなんかもできない”わけだよ。そういうひとがいっ ぱいいるわけだ』  
(楢葉町の住職、楢葉町にて二〇一五年一月)


震災関連死、という概念がある。

これは3.11に限らず災害が発生した後に家族が死に、

その死が間 接的にではあれ災害により引き起こされたものであると遺族が判断した 場合に、

各市町村で医師弁護士などからで構成される災害弔慰金認定委員会に

A4で七枚の書類をもらって必要事項を埋めて提出することから はじまる。

その死が災害による影響で生じたと認定委員会により認定さ れると弔慰金が支給され、

震災関連死死者として公にカウントされ、公 表されてゆく。


この関連死のうち、福島の事故で見過ごしてならないのが自殺、で ある。


二〇一六年一一月時点で、福島ではこの関連自殺者数は七五名。

大規模災害でこうした関連死が発生するのはかつてにもあって、

分か りやすい所でいうと新潟中越沖地震では関連死が六八名だった。

ただこ れは自殺も含んだ総数、かつ原発の要素は存在しない。

つまりは福島で は事故後六年後も続いている避難生活の要素が存在せず、

災害発生から 六カ月以上の申請は認定しないという基準で認められた数になる。


東日本大震災の関連死認定で

厚生労働省は各市町村にこの原発事故の 要素が存在しない基準を適用するよう求め、

結果的に現場はその判断を丸投げさせられたかたちで苦悩することになった。

中越沖地震では六カ月で認定が打ち切られたこの基準の一方で、福島 では

平成二三(二〇一一年)年一〇名

平成二四年一三名

平成二五年二三名

平成二六年一五名

平成二七年一九名

平成二八年七名

平成二九年一二月時点で一二名


(厚生労働省『東日本大震災に関連する自殺者数』より) の九九名と、

事故後六年目に入っている本年においてもこの自殺の認定 に歯止めがかかっていない。

(2018年頃までは内閣府がこの震災関連自殺の統計データを公表していたが、2019年から不公表となっている)

問題はその認定率で、

判断を各市町村に任 せたことから県ごとに著しいばらつきがあって、

昨年までの報道では

『死亡時期別では、

震災から六カ月を超えて認定された人の割合は

福島 三八%、

岩手一二%、

宮城四%』。

加えて、挙げた発言のように、

申請す らできない死者が存在している可能性がある点にある。

認定された自殺 者の多くは五〇代の元農家の女性であることが伝えられている。

かつては耕作地であった場所には、除染により生じた汚染土を詰めた 黒い袋が堆積することになった。


平成二五年二〇一三年の頃というのは

避難指示区域は依然として住む ことはおろか滞在する時間が

制限されていた場所が多かった頃で、

作業員、もしくは人が居ない間の空き巣を警戒するパトカーばかりが動いて いる場所だった。