連作祭壇画 無主物

「仮設のひとびと」

ベニヤ(1100o×910o)三枚に油彩
二〇一四年一二月から制作、完成

 

  「―だからね、

年中新聞報道作ってるひとたちが、

われわれがこ ういうことを言いたいんだ、ってことがわからねえはずはないん だよね。

それをわかってて、

やっぱりそれを大事なところを削る んだから。

(どういうことなのかな)


って思ったよね。

( 中略 ) メディ アの、もう、、情報っていうのは…、

いいかげんだし、

怖いざあ…っ て。」  
(仮設住宅に住む男性二〇一五年九月)


政府により強制的に避難を指示された場所の住民は、

応急仮設住宅と 正式には名付けられた仮設的な住宅に住むことになった。

応急とあるこ とからわかるように、

その住宅はとりあえずの住み家であって、

建設当初政府は二年間の生活をめどにおいていた。

事故後六年を経過し、

そう して避難指示を受けた場所の避難指示も解除されはじめている。

だが、 事故後六年の現段階でも福島にはこの同じ形で揃えられた住宅の一角は点在し、

六年の間に引っ越すこともできずにいる多くは老齢者が住んでいる。



ある時期から自分はこうした場所を含む仮設住宅へ通うようになったのだが、

時間を経過するごとにこの場所の性格が鮮明になってきた。

避難指示が解除されてゆく。

それは一面明るいニュースなのかもしれ ないが、

現実としては店もなく、

病院も無くなった場所へ戻る住民は多 くない。

とくに、幼子を持つ若い夫婦、若者の機関割合は少数だ。

老齢 者にとっては、むしろ仮設が存在する場所は町に近く、元は住んでいた 場所以上に店も、駅も近い。

住民が避難した間に町は変貌している。

原 発や除染関係の作業員宿舎が建設され、

住民の割合はむしろそうして流 入してきた作業員が多数を占める時期も発生していた。

除染活動が民間企業に下されて本格する二〇一二年から、

暴力団の建設業への違法な人出し、

そして違法な賃金中抜き事件が倍増してゆく。

警察庁の統計においては、

それまでは全国四八都道府県で一年の間に立件されていた件数が、

ほぼごっそりと増加し、

この違法な人夫出し事件における暴力団の関与率は八〇%を超えてゆく。

福島での除染活動が背景にあることは書かれていなくとも分かる増加になっている。

 

(『平成28年における 組織犯罪の情勢
【確定値版】
警察庁組織犯罪対策部 組織犯罪対策企画課』より)

 

これまで、 除染作業に対する賃金不払いなどでの福島県内においての殺人を含む暴力沙汰はいくつも報道されており、

それも氷山の一角に過ぎない。

人が好んではやらない仕事、

しかし誰かがやらなければならない仕事を日陰で実行していた彼らが居なければ、

復興の状況は今ほど進んでい なかっただろう。

だが、現地民は、彼らの持つ荒れた雰囲気を直に感じている。

そんな作業員達への恐れもまた帰還を選ばない理由となる。

ただこの避難生活は賠償金を得ているということから受ける

地元民か らのねたみの視線言葉に囲まれ、

地元と隔絶しながら生活している仮設の住民が

彼らの本音として自分に伝えてくることとはこんなことだっ た。

避難指示解除が決まると、

しかし彼らのこうした本音は報道されない。

収録はされるが、

編集の段階で切り捨てられる。

そのこと自体が彼らの 不満のかなりおおきな部分を占めていた。


言葉捨てられる場所―。



自分はいつしか仮設住宅をそんなふうに見るようになった。


都市の街がそうであるように、

仮設住宅の中で隣りあって生活するこ とになった彼らは、

事故前はお互いの顔も名前も知らない他人同士だっ た。

その他人同士の関係が仮設住宅に持ち込まれたとしてもその関係が 変わらない場合もあり、

傾向として年配の男性はその関係の変化につい てゆけず、

一人孤立して佇んでいる姿をこれまでいくつも見た。